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スタートアップにおけるストックオプションの設計とオペレーション

こんにちは、モノグサでCorporate Planning(いわゆる経営企画)を担当している山本です。今日はモノグサが報酬制度の一つとして導入しているストックオプション(以下、SO)に関する取組について発信できればと思います。

スタートアップの報酬制度としてSOのことを耳にすることは多いと思うのですが、意外とその設計や運用のリアルについての情報は世の中に出回っていないように感じており、SOに関する悩みを抱える少しでも多くの人の目に届き、お役に立てれば幸いです。

※参考になればと思っておりますが、実運用については必ず専門家などに確認を取ったうえで行ってください


なんでSOを導入しているの?

SOって何?という話についてはこの記事では割愛させていただきますが、モノグサではSOの役割を「株式会社を取り巻く多様なステークホルダー(ユーザー・クライアント・投資者・経営者・従業員など)の要求を、企業価値を高めるという共通目的でアラインメントするもの」と定義しています。SOを報酬として受け取る従業員は、企業価値が高まれば高まるほど自身が得る経済的メリットが大きくなるため、報酬が現金給与のみの場合と相対的に企業価値向上に貢献しようとするベクトルが強まります。

ここまでは一般的な話であり、上記を踏まえてもSO制度を導入する/しないの判断は両方あり得ると思います。その中でモノグサがSO制度を導入している大きな理由として「社員が自身の貴重な労力や時間を(他にも沢山の選択肢がある中で)モノグサというスタートアップに使ってくれているという意思決定に対して、相応のリターンで報いたい」という経営陣の想いがあるからです。

この想いを実現するために、会社のフェーズの変化に併せてSOの付与制度も変更をしています。モノグサがまだアーリーフェーズだった導入当初は会社の基盤を一緒に創っていける人材の採用を目的としており、人事制度上の上位等級人材の採用(もしくは昇級)時にまとまった個数を付与する制度としていました。

その後、事業が一定立ち上がりミドルフェーズに入ったタイミングからは、対象者や付与タイミングを変更する意思決定を行っています。
上位等級に限らず全社員を対象とし、年2回の人事評価に連動して付与する形にしたことで、全メンバーの入社後の継続的な活躍を適切に反映して報いることができる制度としました。(上位等級の採用・昇級時付与も継続しています)

SO制度を導入したらどんなオペレーションが必要になるの?

当たり前の話になりますが、SOは将来的に行使されれば株式に転換されるものです。原則としてSO発行は株主総会での決議が必要な事項なので、当然制度の導入には株主との合意が必要ですし、発行のたびに説明する責任があります。株主間契約などで「インセンティブ目的SOとして発行してよいのは発行済株式の何%まで」など、いわゆるSOプールが定められることが一般的かと思います。

SO制度の担当者としては、会社の資本政策を正しく管理するために、現在発行済みのSOが何個あるのか、という管理が必要になります。具体的には「新株予約権原簿」を作り、権利者の氏名、住所、内容と個数、取得した日付などを管理しておく必要があります(新株予約権原簿は投資者の方々や監査法人などへも定期的に提出を求められる公的な書類となります)。また、発行している新株予約権は登記事項でもありますので司法書士の方などと連携をしながら登記も併せて行う必要があります。

一口にSOと言っても、発行したタイミングごとにSOは全て別物として管理が必要であり、一般的に「第何回新株予約権」という名称で区別がされ、回号ごとに誰に何個ずつ付与されているのかを管理する必要があります。回号ごとの違いとして具体的に言うと、行使可能期間の起算日となる発行決議日やべスティング条項であったり、行使価額が異なるケースが多いと思います。

ここまででも「管理するの結構大変そうだな、、、」と感じると思いますが、さらに管理が複雑化するのが権利者が退職された場合です。モノグサの場合、退職された方が複数回SOを付与されていることが多いので、第何回新株予約権を何個持っていたのかを特定し、それを原簿に反映&登記をする必要があります。

tipsになりますが、退職者の持っていたSOを「退職したタイミングで放棄するのか」「会社で一度自己取得し、その後会社として償却をするのか」によってこのオペレーションの煩雑さは異なります。会社が自己取得したSOの償却は株主総会決議が必要な事項になりますので、前者での対応をお勧めします(退職時にSOの放棄書を取得しておけば、それを持って登記を更新することが可能になります)。

契約時のオペレーションも想像してみていただければと思います。モノグサでは現在150名弱の方々が働かれているのですが、年2回の人事評価の都度、全員とSO契約の締結をすることになります。また、前述した通り人事評価に連動して付与数が決まる制度となっており、一人ひとり付与数が異なりますので、同じ契約書を全員共通して締結することができないのです。なので、全員に対して契約書を用意し、記載されている付与数に誤りがないかを念入りに確認をしたうえで全員と漏れなく締結する必要があります。かつて、モノグサではクラウドサインで締結をしましたが、何かのヒューマンエラーで個数が間違ったりしていないかとヒヤヒヤしていました、、、。

SOを受け取った社員の方々の反応は?

ここまではSO管理の実務担当者としてお話をしましたが、この管理の苦しみはSO権利者となった従業員にとっても同様です。半年に一回契約が積み重なるSOについて、「自分は全部でSOをいくつ持っているのか?」「いつ何個のSOを行使することが可能なのか?」を把握し続けることはなかなかに手間がかかると思います。

この問題は新株予約権原簿などを社内向けに公開すれば解決しそうに思いますが、モノグサでは社員の心理的安全性の確保のため、個人の評価や報酬につながる情報の共有は極力しないことをポリシーとしています。新株予約権原簿の公開は評価や報酬の公開につながるため、一人ひとりが個人で管理するしか方法がないのです。

また、「現在の企業価値はXX億円です!自分はSOをXX個持ってます!」となっても会社の発行株式総数(顕在も潜在も)を知らなければ、それがどれだけのリターンになるのかは計算することもできません。(計算ができるだけの知識を持っている方も全員ではない)ふとした時に社員の方と会話をしてみると、「正直SOのありがたみがよくわかってないです」「上場したら使えるんでしたっけ?よくわからないです」という声は頻繁に聞こえてきて、実務担当者としては悲しい気持ちになるものでした。

SO管理SaaS「Nstock」の導入

ここまで書いたような「SOの実務オペレーションの苦しみ」「権利者が自分の権利を理解できない苦しみ」を解決するため、2024年2月、モノグサではSO管理SaaSのNstockを導入しました。

これにより今までスプレッドシートで管理をしていた回号別、権利者別のSO数がシステムで管理できるようになり、新株予約権原簿は自動で作成されるようになりました。契約手続きに関しても一人ひとりの付与数をまとめたcsvを投入するだけで全員とNstock上で契約できるようになり、私のSO管理にかかっていた工数は1/10、ストレスは1/20になりました。

権利者側としても、自身の保有しているSOや行使条件、想定リターンなどが一目瞭然で確認できるようになり、自分が報酬として受け取っている権利の理解はかなりしやすくなったと思います。

加えて申し上げると、現在モノグサが直面しているSOの課題は未上場の間(SOは付与のみで行使されない状況)に起こる課題のみです。実際にSOが行使され始める頃には今は見えていないオペレーション課題が発生すると思いますが、Nstockさんはそこまでフォーカスに入れて開発・サポートを進められていますので将来に向けての備えという意味でも導入の意思決定をしました。

これ以上はNstockさんの宣伝記事になってしまいますのでここまでとしますが、同様の課題を抱えられている方々はぜひ一度コンタクトしてみることをお勧めします!

SO、本当にワークするの?

ここまでお話しした通り、SOは設計やオペレーションにコストがかかるものの、権利者にとってインセンティブとなる仕組みがやや難しく、付与しただけでインセンティブとして強くワークするものとは言い切れないと感じています。一方で「SOを用いてステークホルダーの目的を企業価値向上に揃え、結果として従業員のリスクテイクや貢献に報いる」という経営陣の想い自体に間違いはなく、SOにまつわるハードルを超える努力をしてでも実行すべきだと信じています。

これまでの取り組みを通じてモノグサにおいて、「SO制度運用のコスト最小化」と「権利者が自身の報酬内容を理解するための最低限の土壌」は、Nstockさんの力もあり整えられたと考えています。ただ、権利者が日々の活動や貢献と企業価値への結びつきを意識できるようになれば、もっと効果的にSOがワークするようになるはず。Corporate Planningとしての活動はそこへ寄与できるはずと信じているので、順次追加施策を打っていきたいと考えています。

最後に

モノグサでは様々な職種で採用を進めており、現在Corporate Planningも絶賛採用中です。今回お話ししたSOはCorporate Planning業務のほんの一部ですので、少しでもご興味持たれた方は是非お話しさせてください!