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大企業とスタートアップの法務の違い

モノグサの法務担当です。今は契約業務を中心に、事業や会社の仕組みづくりにかかわる色々な法務業務に携わらせてもらっています。

これまで事業会社の法務職として、プライム上場企業とスタートアップ企業という、規模の異なる会社で働いた経験から、今回は大企業とスタートアップ企業の法務の違いについて発信できればと思います。


Introduction

まずは私自身のこれまでのキャリアについて簡単にご紹介させていただきます。

大学の法学部卒業後、国際協力に興味があり大学院でベトナムの戸籍法を研究し、新卒で大手法律事務所に弁護士秘書として入所しました。

その後家族の転勤でタイバンコクに転居することになり、現地の会計・法務コンサルティング会社で約1年インターンを経験しました。日本帰国後、不動産関連の事業会社ではじめて事業会社での法務職として働き始め、グループ全体の契約審査、法務相談、訴訟対応などの事業法務を中心に、海外企業との交渉を含む商標業務、株主総会対応やグループ会社再編などのガバナンス法務を経験しました。

その中で、商標業務が面白く知財分野に興味をもったこと、コロナ禍を通して働き方を見直してみようかなと思ったことをきっかけに、いわゆるディープテックと呼ばれる社員40名規模のスタートアップに法務として入社しました。その会社には法務を単体で扱う組織はなく、知財をメインに扱う部署で法務業務も担っておりました。当初は主に契約審査や法務相談といった事業法務を中心に、社内規程類の整備や改定といった業務も含めて担当していましたが、後半は資金調達に関連する業務や、株主総会・取締役会に関連するガバナンス法務にも携わっていました。

その後ご縁がありモノグサに入社したのですが、これまで大企業・スタートアップの双方で法務という仕事をしてきた中で、それぞれの特徴が見えてきたので、具体的にご紹介していきます。

大企業とスタートアップの法務の違い①:人数

当たり前ですが、大企業とスタートアップは全体の従業員数が全く違いますので、法務を担当する従業員の数も違います。おそらく大企業では、少なくとも10名程度(さらに大きな企業の場合には法務だけで数十人)の法務部員がいることが多い印象ですが、スタートアップの場合は1~3名程度(3名いたら多いな!という印象)で法務を担当していることが多いです。一人法務であることも多いですし、経理や法務などのコーポレート業務全般を一人の方が全部担当されているケースもめずらしくありません。

実際、私がいた大企業の法務部門は15名程度、前職のスタートアップは3名(そのうち2名は知財や総務との兼務)で、モノグサは2名(法務専任)です。それぞれ会社の規模に応じた一般的な法務組織の人数構成かと思います。

大企業とスタートアップの法務の違い②:業務範囲

法務という組織が担う業務の幅は、当然、事業の大きさや子会社の有無などで変わってきます。事業の数が多ければ、発生する契約の数や内容、法務相談として受ける内容にも幅が出てきます。子会社がある場合には子会社管理も発生しますし、海外で事業をしていれば、その国の法令調査や海外拠点の管理なども出てきます。そういう意味で、法務が組織として担当する業務の幅は、大企業の方が広くなります。

一方で、法務の個々のメンバーが担う業務の幅は、スタートアップの方が広くなります。大企業の場合は、法務部内で分業的に業務を行うことが多く、例えば、契約審査はこの人、個人情報まわりはこの人、子会社管理はこの人、といった具合に業務を分担しているケースがほとんどです。会社によっては経験に偏りが出ないよう横断的にそれぞれの業務を経験する場合もありますが、基本的には各メンバーが法務業務全般を担当することはありません。それに対してスタートアップでは、人数が限られていることから、大まかな役割分担はあるものの、細かい分業制は取られず、メンバー全員が会社で発生するほぼすべての法務業務に携わることになります。一人法務の場合は、これも当然ですがすべての法務業務を一人で対応することになります。一部を外部の法律事務所にお願いすることはありつつも、個人情報まわりはこれまで経験がないから担当しないとか、事業法務が好きなのでそれだけをやる、といったようなことはできず、あらゆる法務業務を担当することになります。

大企業とスタートアップの法務の違い③:業務の内容・進め方

スタートアップで働いて感じる業務内容の差としては、会社のルールづくりに関わる業務が、大企業より圧倒的に多いということです。大企業の場合、既に社内規程などの社内ルールが一定整備されており、そのルールに則って業務をまわしています。事業部から法務への契約審査や法務相談の依頼ルートや方法も、一定のフォーマットやワークフローが整備されていたり、取締役会や株主総会などの会議体の運営についても、それに関連する規程が既にあり、その規程に則って各部署が何をやるかが一定フロー化され、随時改善は行われるしても、基本的にはそのフローをまわすことで業務を進めていきます。

一方、スタートアップでは、まだ会社のルールが決まっていないことが多いので、必要なルールを随時作っていかなければならず、そのルールの大元として社内規程の整備が必須になってきます。取締役会や監査役会など会社の機関構成をどうしていくかという大きな議論から、販売管理はどのようなフローで行うか、会社で扱う文書や秘密情報をどのように管理していくかなどの議論を行い、それを規程として作り上げていきます。上場を検討しているケースであれば、上場に必要な規程をすべて整備していかなければなりません。規程だけでなく、法務へ依頼いただく際の相談フローなども社内の関係者に協力をあおぎつつ、自分たちで一から作っていく必要があります。

また、ルール作りの進め方においても大企業とスタートアップの間で差があると感じています。大企業では、このルールを作ったから、どうしたらこのルールを守れるか各自で運用方法を考えてくれ、という形でトップダウン的にルールが制定されます。もちろんルール作りの過程でも社内でのハレーションが起きないように一定の調整は必要ですが、細かいところまで調整していくとルールを作り切れないので、どうしてもトップダウンで制定せざるをえません。

スタートアップの場合、ルール作りにおいてかなり重要になるのが、作ろうとしているルールが今のリソースで本当に運用できるかといった視点です。上場に必要だからと一般的なひな形をもってきて、急にこれをルールにするから守ってね、と言っても、そのルールの運用に膨大な工数がかかってしまうと、限られたリソースではまわせませんし、社内でのハレーションも大きくなり、結局は意味をなさないルールとなってしまいます。スタートアップの社内ルール作りは、法令やルールの趣旨に照らして最低限決めておかなければならない事項を絞り込み、それをいかに実際に運用できる形で文書にしていくかという、どちらかというとボトムアップ的な作り方をしていく必要があるという点で、大企業とは大きく異なると思います。

スタートアップで働いて感じる大企業での業務との違いとしては、もう一つ、経営陣との距離の近さが挙げられます。これは法務に限らずどの部署でも同じですが、日常的に経営陣との距離が近く、日頃から直接業務内容を共有する機会があり、会社として意思決定してほしいトピックがある場合には、直接経営陣と対話し、説明の機会を設けさせてもらうことも多いです。大企業の場合、一法務部員が直接社長と話して業務の説明をしたり、社長の意見を聞くといったことはほとんどありませんが、私の場合、前職ではリスクのある契約について直接CEOと話して判断を仰ぐ場面があったり、今のモノグサでは隔週でCFOと1on1があるなど、スタートアップならではの経営陣との距離の近さを日々実感しています。

大企業とスタートアップの法務の違い④:働き方

働き方については、今はどこでも働き方が見直され比較的柔軟な環境が整えられているところだと思います。大企業だから、スタートアップだからと一括りにはできないのですが、スタートアップはやはりこれから会社を大きくしていく上でヒトが重要なリソースになるので、従業員にとってなるべく働きやすい環境を整えて、長く一緒に働いてほしいという思考が強くなる傾向にあります。そのため、フレックスやリモートを認める会社が多い印象です。一方で、人が少なく業務分担をしきれないために、どうしても業務負荷がかかりやすい実状もあると感じています。

私自身は、前職でもモノグサでも、フルフレックスやリモート可という環境で非常に柔軟な働き方をさせてもらっております。また、メンバーの皆さんのサポートもいただきながら、ありがたいことに無理なく仕事と子育てとの両立ができています。もし、スタートアップだとワークライフバランスが取りづらいのではと心配されている方がいらっしゃれば、その会社ではどのような働き方が認められているのか、メンバーの方がどのような考えをお持ちなのか、カジュアル面談などを利用して気軽に問い合わせてみられるとよいかと思います。

大企業とスタートアップの法務の違い⑤:その他

これは法務の違いではないのですが、スタートアップで働き始めて感じたその他の違いとしては、大企業のときと比べて、評価への力のかけ方がかなり大きいことです。いわゆるバックオフィスと呼ばれる法務、総務、経理などの職種では、日々の業務をミスなくこなすことが大前提として求められ、それを超える定量的・具体的な目標設定や、自分の業務成果を可視化することや定量的に評価してもらうことが難しい傾向にあるのではないかと思います。そのような中で、前職では、契約審査等のルーティン業務を含むすべての業務について自分の成果をアウトプットとしてドキュメント化し、それを踏まえて成果を積極的にアピールする場や仕組みが設けられており、全社的にかなり評価に時間をかけていました。また、今のモノグサでは、目標設定に対するパフォーマンス評価だけでなく、会社が大切にするバリューと自分の働きや行動が一致しているかを評価する仕組みとして「価値観行動評価」という評価体制が設けられております。定量的な評価が難しい法務という職種においても、様々な方向から評価を受けられ、社員にとって手厚い評価体制になっています。

このような体制は、評価をする側にとっては非常に大変な作業ですが、評価を受ける側の満足度はかなり高くなると感じています。すべてのスタートアップに共通するわけではないかもしれませんが、限られたリソースの力を引き出し最大限活用するためには評価→目標設定→達成というサイクルが重要になるため、やはりスタートアップでは評価に力を入れる傾向にあるのではないかと思います。

もう一つ、大企業とスタートアップの違いとしてどうしても触れておかなければならないのが事業の継続性です。会社の規模にかかわらず、どの企業でも会社の終わりはいつか訪れる可能性があるわけですが、事業が安定していないスタートアップでは、事業が軌道に乗るまではどうしても大企業より事業継続性の観点でリスクは付いてきます。実際、私は前職で会社の解散に立会うという経験をしました。できることならそのような場面に立ち会わない方がよいのかもしれませんが、法務という立場としては、会社の解散決議にかかる業務を行うことも非常に貴重な経験の一つであり、それは必ず次に繋がるスキルになります。また、そのようなリスクを乗り越えて、会社が大きくなっていくプロセスを見ることそのものがスタートアップの醍醐味でもあるので、個人的には、そこをあまりリスクと捉える必要はないと考えています。

最後に

今回は大企業とスタートアップ企業の法務の違いについて、思いつくものをざっとお話してみました。大企業・スタートアップ企業双方にそれぞれの法務の面白さがありますが、私自身は、事業に寄り添って良き伴走者のような法務パーソンになりたいという思いがあることから、比較的会社規模が小さな段階から、事業や会社の仕組みづくりに寄り添い、共に大きくしていくプロセスにやりがいを感じてスタートアップで仕事をしています。もし、今大企業にいらっしゃって、「スタートアップでの法務の仕事に興味があるけれど、具体的にはどのような違いがあるのかイメージがわかない」と思われている方がいらっしゃれば、今回の記事が少しでもお役に立てば幸いです。

モノグサの法務メンバーは、それぞれ大企業でも他のスタートアップでも仕事をした経験をもっていますので、もし少しでもスタートアップの法務の仕事にご興味をお持ちの方がいらっしゃれば、いつでも気軽にお問合せください!みなさまとお話できる日を楽しみにしています!!